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弥生の月

もう卯月ですが(爆)
鍵ちゃんお誕生日と千遥誕生日を一緒にーッてことで小話…こばなし…と、挿絵。
相変わらずの作文クオリティなので許してつかあさいガクブル
愛は!!たっぷりありやすんで!!(きりッ

※当家設定狛犬さんがおります注意。


宜しければクリックずずいとどうぞなのです~


■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□




弥生も半ばをすぎたというのに、寒さは変わることがなく。
ちらほらと咲いた梅の花も震えているような錯覚さえ覚える。
そんなある日のこと。


「鍵、その…今日、誕生日なんだよな?」

ふいに千遥さんに言われた言葉は馴染みがなく、一瞬返事までの間が開く。
それを不安に思ったのか、慌てて千遥さんは言葉を付け足した。

「あ、違ったか?鍵の本体像にさ、建立日が書いてあって…それが今日だったからそうかなぁッて」
「ああ…そういやそうでしたね。確かに今日は私がここに来た日だ。
ここの神使として生まれた日を言うんでしたら、誕生日としちゃ間違っちゃいやせんよ」

そういえば、千遥さんは「そっか」と、嬉しそうに笑って。
最近はずっと増えた笑顔。
そんな彼につられて、私も笑う事が増えた気がする。

「じゃあ今日が鍵の誕生日ッてことで。おめでとーな」

そう言って千遥さんから手渡されたのは、丁寧に包まれた大きめの稲荷寿司で。
手作りの品なのは、期待とこちらの反応を探るような目で直にわかった。
まったく、心だけじゃなく顔に全部でちまうんだから、ねェ。
くつくつと笑うと、むっと千遥さんは口をへの字に曲げる。

「なんだよ、そりゃちょっと不恰好かもしんねーけど。ちゃんと美味いッつーの」
「ふふ…わかっておりやすよ。私ァ千遥さんの手作りのコレが、いっとう好きですからね」

そう言えば、今度は顔を赤くして。

「あ、え。そう…か。じゃあ、ちゃんと全部食べろよ?たりなきゃまた作るから、さ。
……あ、けッ鍵がここの神使になってから、百年くらいなんだろ?
来たばかりの頃は鈴みたいだったわけ?」

急に話題をそらそうと、言葉を詰まらせながら言う様子に。
私はまた笑いそうになりながら、ふっと目を細めた。





+++++++++++++++++++++++++





鴉羽神社、狐像の建立日。

それまでは他の地の神社でお勤めをしたり、ふらふらと各地を回ったりしていたんですけどね。
神からのお言葉とあれば、従わなきゃいけないモンで。
面倒だ、なんて思う気持ちも無かったといえば嘘になりやす。
正直気が乗らなかったんですよ。気に入らない、と言った方が近いでしょうか。
羽鳥家にまつわるその話、も。
人には深く関わらないと決めた。必要以上の感情も持たないと決めた。
それでも……見守るしかない神使の仕事ッてのは。嫌なモンですよ。

そんなことを思いながら、鳥居をくぐる。
確か、私の対になる相手は狛犬だと聞いていやした。
話半分に聞いていたモンでね、そういえば名前も聞いちゃいやせんでした。
確か、…


417c22f1.gif


「やあ鍵、久しぶり」

久しく呼ばれた事のない、私の名。
突然にかけられた声の方向を見れば。
まるで昨日あったばかりのように、狛犬はひらひらと軽く手を振っていた…





「貴方は本当に…変わっちゃいやせんね」
「そう?男前になったじゃないか。鍵は随分と…どうしたの、髭なんか生やしちゃって」
「別にいいでしょう」

彼に逢うのはいつぶりか、思い出せないほど昔。
けれど、こうして隣で笑う彼はあの時と同じ…希望に満ち溢れた、変わらない笑顔で。
私だけが…変わってしまったのだろうか。

「あ、そうそう。鍵にコレ渡しておかなければね」

そう言って手渡されたのは、くるりと巻かれた形の煙管。
手に持った瞬間にわかる。
これは――鴉羽神社の、《鍵》だ。

「鍵が預かっているように、ッて。無くしちゃ駄目だよ」
「貴方じゃありやせんし…それに、私ァそんなヘマはしやせんから」
「言うじゃないか、鍵ッてば」


あれから更に、時は流れ。
私の元には、まだこの《鍵》がある。
思えばこれが、初めての「誕生日ぷれぜんと」なんでしょうかね。
私のモノでもない。借り物、ですが…





+++++++++++++++++++++++++





「…仔犬ちゃんみたいな私ですかい?はは、どうでしょうねェ」
「なんだよ、誤魔化すなッてば」
「それよりも千遥さん。これ、一緒に頂きやしょうか」

そういって貰ったばかりの稲荷寿司を手に、にっこり。

「…話そらしたな。まあいいけど…あ、それとさ。えーッと…」

言いよどむ千遥さんの言葉を、待つ。
こんな時間も好きだなんて、自分でも相当だと思いやすよ。
と、ふいに頭の中に声が聞こえやした。千遥さんの、心の声。

『今日、時間あるから。お前と…鍵と。一緒に…い、いた……い』

おや、と千遥さんを見やると俯いてしまい、その顔は見えない。
いつまでも私の恋人は、初心で照れ屋でしてね。
そっと包み込むように抱き締めれば、ぴくりと体が跳ねた後、そっと手が私の袖を握る。
この幸せな時間は、私だけのもの。
私だけの…

ふと。
気付いた。



「…私は。今日だけじゃなく、貴方から…ニンゲンから。贈り物を沢山貰っていたんでしょうか」

共に過ごした、短くとも暖かな時間。
私の名を呼ぶ、声。
私に触れる、その温もり…そして、思い出。

「…ん。なんだ、自分は何も持ってない、とか思ってたのか?」
「それは…」
「今のお前があるのはさ。色んな経験とか、出逢いとか、思い出があるからだろ?
こっちで逢ったばかりの時、言ってたよな…自分は曖昧な存在だって。でもさ。
お前は…鍵は、間違いなく鍵だよ。今、鍵を形作ってる思い出も含めて、な」

自分のものというものは。
目に見える、形に残るものでなくても構わないのだ、と。
…そうですね。
どうにも長く生きてると、考えが凝り固まっちまっていけやせん…

「…なら。これからの私は…私の思い出は。貴方が作っていってくださいね、千遥さん」
「お…お、おう」
「そして、貴方の思い出も私でいっぱいにしなければ、ねェ」
「………お前の言い方、なんか…アレだ」
「おや。そりゃア、千遥さんがそういう事を考えているからじゃないですかい?」
「なッ!ち、ちげえ!!あほ!」

そういって飛び掛ってきた体を、再びふわりと腕の中へと閉じ込める。
私が今まで貰ってきた物を。
私を形作ってきたものを。
今度はこの人に、捧げよう。
彼の思い出が、私でいっぱいになるように。


6ea61b7c.gif


「そういや、もうすぐ千遥さんの誕生日でしたよね」
「えッ?あ、そうだけど…」
「それじゃァ、私を差し上げやすから。今日は千遥さんを、私にくださいね。あァ…今日も、が正しいですか」
「へ…そりゃどういうこ」


それ以上の言葉は要らないと、千遥さんの唇に自分のそれを重ねる。
ああ。私にはもう一つ…自分のものがありやした。

―――千遥さん。

大事な、私の。
たった一つの…宝物。






=終=















おいなりさんは袋に入れた状態で足元に(

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